注:本記事は、私個人のブログの記事「博士のための「けものみち」就職活動ガイド」(2009年3月30日投稿)を編集してこちらに再掲載したものだ。元記事を書いてからほぼ8年が経ち、私も2回の転職を経験したが、基本的な考えは今でも変わっていないので、少し追記した上で掲載したいと思う。
やっと就活も一段落して、博士も無事取れたので、自分の就活体験について、「就活を始める前の自分に伝えたい、博士の就活のコツ」という形で書いてみる。同じ境遇にある人の参考になれば幸いです。
まず大前提として、博士を出て就職しようという場合、大企業で博士新卒の枠に収まるのでなければ、「けものみち」就活は覚悟しなければいけないということ。それだけ、基本的なスキルに加え、枠にとらわれない柔軟性、積極性、対人能力が求められる。修士までの「レールの敷かれた」就活とはかなり事情が異なるので、ここでは梅田望夫さんの言葉を借りて「けものみち」就活と呼んでみたい。
就活を始める前の自分に一つだけ最も大切なことを伝えられるとしたら、「まず情報収集を、早めに、徹底的にやっておく」ことをアドバイスすると思う。情報収集といっても、企業のウェブを見たり、『就職四季報』を見たりといった表面的なことではなく(もちろんそれも大事だが)、実際に社員の人に会って話を聞いたり、オフィスの見学をしたり、可能ならばインターンのような形で働けるとベスト。
社員の方というのは、普通は自分の会社のことなら喜んで紹介してくれると思うので、気軽に「興味があるので話を聞きたい」とコンタクトしてみると良いと思う。もちろん、ただ単に話を聞くだけじゃ都合が良いだけので、自分からも提供できるネタを持って行くと良い(例えば研究紹介とかデモとか)
そもそもこのような情報収集は就活には必須だけど、さらに、「情報収集フェーズ」と「応募フェーズ」を分け、ある程度情報が出そろってから実際に受け始めることをオススメする。このためには、情報収集については、とにかく早く動き始める必要がある。博士を順調に3年で出られるとしたら、2年の半ばごろには回りに「就活してます」宣言して、「もう就活ですか、早いですね?」と言われるぐらいのタイミング。
なお、現在の経済状況がこんな有様なので、良いな~と思っていた企業(ポジション)に求人が無いなんてザラ。なおさら「情報収集フェーズを分ける」のは重要。
不動産における三つの重要な要素は「場所、場所、場所」とはよく言われるが、「けものみち」就職活動に重要な三つの要素は間違い無く「人、人、人」である。就活において重要な情報はネットの上には無い場合が多いし、「チャンスは人に乗ってやってくる」という言葉(千葉智之『出逢いの大学』より)に加えて、自分としては「情報は人に乗ってやってくる」も付け加えたいと思う。
このためには、普段から人的ネットワークについてほんのちょっとだけ余分に意識すると良い。自分はあまり人付き合いが上手な方ではないのだが、(国内|国際)会議に参加するたびに「毎回、新しい知り合いを最低5人は作る」ことを目的に積極的に顔を出していた。今のところコンスタントに(目標を上回るペースで)達成できており、そこで得られた恩恵は研究や就職に限らず計り知れない。もちろん、そのためには当該分野である程度の成果を上げることが必要条件だと思う。
目標としては、応募したいと考えている全ての会社に対して、そこの社員の方と直接面識があるか、最低でも共通の知人1人の紹介で繋がれる、といったところを目指したい。
「けものみち」就活に限らず、就活は長丁場になりがちで、気を遣う面接や会社訪問の連続は、たとえうまく行っていたとしても精神的にもけっこう堪えるものがある。また、1社を受けるためのコスト(実際に訪問する時間に加え、企業研究や面接対策に費やす時間)は膨大なものになる。ただでさえ博士論文や研究で忙しい博士後半なので、時間的にもかなり厳しくなるのは覚悟すべき。このために、ストレスに負けない精神面と、体力的な身体面に注意しておきたい。
個人的には、「研究と全く関係無くて」「ある程度身体を使う」趣味を持つのがオススメ。スポーツとか楽器とか旅行とか。これは、博士の長い研究生活に対しても言えるけどね。
「就活で理想なのは、応募した会社全てから同時に内定が出ること」とMSRでインターンしていた時に同僚が言ってた。まず全てのオファーが出そろうまで待って、そこから最適なものを一つ選ぶそうな。新卒採用で無い限り、オファー(内定)の出るタイミングはなかなか予測できないし、内定の長期間のキープもほぼ不可能である。(ただし、面接のスケジュール調整をうまく使って、複数社の応募の進行具合を調整するという技もある)
そこで、複数社に応募する場合は特に、応募するタイミングと順番が重要になってくる(この件に関して自分はダメダメで、色んな人に多大な迷惑をかけたのだけど・・・)このとき参考になるのが、「最適停止の理論」(秘書問題とも呼ばれる) というもので、これは例えば10社を順に受けるとき、どの会社から内定が出た段階で就活をストップすべきか、ということに関して確率的な最適解を与えてくれる。詳しくは以下のページ
を参照してほしいが、この最適戦略に従うと、平均で10社中上から2.55位ぐらいのところに入社できるそうな(期待値なので、実際は1位のとこに入れるかもしれないし、10位かもしれないが、平均的に。)もちろん、「それまでに内定の出た会社が魅力度という観点で完全にランク付けできる」という前提があるが、この前提がけっこうくせ者だったりして。
ちなみにこの理論、「10人の異性と順番に付き合うとして、何番目の人と結婚すべきか?」「10人の応募者を順に面接するとして、何番目の人を採用すべきか?」という問題にも応用できて、個人的にもこれは興味深いトピックだったり。。。
上で「人」が重要だと書いたけど、同時にネットをフル活用することも大事だと思う。これは車の両輪のようなもので、両方そろってこそまさにパワーが発揮できる。
個人的な意見としては、ネットで就活のために自分のブランディングや広報を行うという場合、現時点でブログ以上に手軽で効果的なツールは無いと思っている。面白いブログを書いている人は、会ってもやはり面白い人である場合が多いし、こういう「ネット上の知名度」の重要性は今後増す一方だと思う。もちろん、面白いWebサービスやソフトウェアを作って公開するなど、知名度を上げる戦略はブログに限ったものではないが、その場合でもやはりブログぐらいは持っておいてほうが良い。
あと、最終的な決定に関しては寄与しなかったが、個人的には LinkedIn もかなりオススメ。登録してから、企業の人事部やヘッドハンターからオファー(応募のお誘い)を何件もいただいたし、こちらから企業の人にコンタクトする場合にもかなり使えるサービスである。
2017年1月追記:応募のお誘い、特に LinkedIn 経由のものは、あまり技術の分かっていない人事担当者が単にキーワードで検索をかけて片っ端からメールを送っている場合が多いのであまり真に受けてはいけない。たまに「ヘッドハントされた」と喜んでいる人がいるが、こういうメール経由で応募しても採用プロセスや難易度は基本的に同じである。やはり一番良いのは社員と知り合いになってそこから社員紹介という形で応募するルートである。
今なら、Glassdoor から会社の評判や給料、面接の難易度や内容が全部分かるので、応募前に全部読むぐらいの気持ちでリサーチするのがオススメだ。
就活を始めてから、巷に溢れるいわゆる「就活本」の類をいくつか読んでみたのだけど、総じてレベルが低いと思った(もちろん、自分が単に良い本に当たらなかったという可能性もあるので、オススメの本をご存じの方はぜひコメント等で教えてください!)
そもそも、バイトの面接ならともかく、博士の「けものみち」就活に「就活本」が役立つと考える自分がそもそも間違っていたのだが、博士に限らず、例えば面接の「想定問答集」みたいなものを本気で買って練習している人が居るかと思うとちょっとゲンナリする。下でも詳しく書くが、本気で自分がその会社で働きたくて、かつその能力がある場合、スキルとして何を求められるのか、面接で何を聞かれるのかぐらいはだいたい想像が付くものだと思うのだけど。
一方、今回は洋書の「就職本」をいくつか読んでみたが、平均レベルは総じて高い傾向がある。前にも書いたが、就職本の「けものみち度」は、間違い無く海の向こうの方が上である(Amazonで「Job hunt」で検索するとぞろぞろ出てくる)。例えば、「気になる会社のリストを用意して、上から順に、片っ端から電話をかけろ」とかいう過激な?アドバイスもあって、それを愚直に実行するかどうかはともかくとしても、色々と開眼することがあるかと思う。
前に記事で紹介した
Orville Pierson: The Unwritten Rules of Highly Effective Job Search
の他にも、個人的に激しくオススメしたいのが、
John Mongan, Noah Suojanen, Eric Giguere: Programming Interviews Exposed
で、これは近年、ソフトウェアエンジニア等を採用する際にポピュラーになりつつある「プログラミング面接」についてのほぼ唯一とも言える対策本である。(2017年1月追記:その後、プログラミング面接がより一般的になるにつれて、良い書籍が続々と出版されている。個人的に現段階でベストだと思うのが、Cracking the Coding Interview: 150 Programming Questions and Solutions で、この本では、具体的な問題の練習の他に、プログラミング面接に向けてどのように練習したらよいかというアドバイスも満載である)
他の分野には関係無いと思うが、ソフトウェアに関連する職を受ける、もしくは面接する予定の人には必読の書だと思っている。(プログラミング面接対策についてはまた改めて書く)
「もし自分が会社の人事なら、この会社のこういう状況を考えると、こういうようような採用試験を課して、こういうことができる、こういう人を採る」というように、採用システムをメタに考えることができれば、上に書いたように「○○社の面接では、どんなふうに答えれば通りますか?」というマヌケな質問をしなくて済む。そういう意味で、「就活生は、イタすぎる」と斬ってくれた『就活のバカヤロー』はかなり痛快だった(ただし、この本が就活そのものに役に立つかどうかは疑問である)。
さらにメタ度を上げていくと、会社にとって結局「人=カネ」なので、会社のカネの流れ、ひいては経済の流れにまで行き着くので、早い段階からそういう情報に敏感になっておく必要がある。もっとも、こういった類の「メタ視点」は、就職に限らず自分がその会社で働くことになってからも重要であるのは言うまでもない。
これまた前にも書いたが、就活と恋愛はとても良く似ている(そのせいで「婚活」なる言葉が生まれたのだが)。真剣に恋愛するとびっくりすることの一つが、相手を通じて、否が応でも「自分」という人間がありありと浮き彫りにされること。
これは就職に関しても同じで、よく就職するに当たっては、「自己分析」が大切、と言われるが、「自分」なんてものは机にじっと座って、「自己分析シート」を前にしてウンウンうなっていても分析できるものでも無く、相手に対して真剣にぶつかって、それに対する自分の反応を見た上で初めて徐々に分かってくるようなものだと思う。
そういった意味で、異性と付き合っていくうちに、「相手に対してゆずれない物」の優先順位が徐々に変化するのと同じように、就活中に、「会社に重視すること」などの視点が変わってくるのは大いにあり得るし、むしろそれ自体が就活の大きな成果だと思う。
実際、就活中にその会社のことを知る良い方法の一つは、実際に採用試験を受けてみることである。面接の担当者が魅力的ではなかったり、技術職採用なのにどうでも良い質問(「自分を動物に例えると何ですか?」みたいなの)ばかりされたりして、採用試験を受けているその場から会社に対するイメージが変わっていくこともある。こういう「違和感」みたいなものは入社後にさらに増幅する可能性が高いので大切にしたい。
なので、個人的には就活を通じた「自分探し」というのは大いに結構で、というか、そういった「自分の価値観の refinement」自体も含めて、就活の大事なプロセスである気がする。
ただし、そもそも就職活動に限らないけど、選択にあたって自分の譲れない「軸」を持っておくことは重要だと思う。なんだか、だんだんと自己啓発本みたいなノリになってきたけど、自分の場合、
という基本的な3つの行動指針があって、就活中に(というか人生全般で)迷った時にはいつもこのことを意識していた。これらは何も自分のオリジナルではなく、
からそれぞれ共感した「指針」をつまみ食いしたものである。上で「会社を魅力度でランキングすること自体が難しい」ということを書いたが、迷ったときは行動指針に合わせて「どちらかより指針に合っているか」で判断すると楽になることが多い。
なお、このブログでも繰り返しオススメしているが、今では「インターン」という「会社で給料をもらいながらお試しで働いてみる」、恋愛の例えで言うと「異性と付き合う前に一夜を共にできる(?)」という素晴らしいシステムがある。日本ではまだまだちゃんとしたインターン制度を提供している企業は少ないけど、「その会社のことを知る」という点でインターン以上に良い方法は無いと思っている。
2017年1月追記:もし、「自分が将来何をしたら良いか分からない」「何に情熱を持てるか分からない」という人がいれば、Cal Newport の "So Good They Can't Ignore You: Why Skills Trump Passion in the Quest for Work You Love" を読んでみることをオススメする。一言で言うと、就活する段階で自分の適性や情熱が分かっている人なんか少ない。情熱は後から生まれてくるものなので、まずスキルを伸ばし、人に貢献できる自分ならではの何かを見つけるところから始めるのが良い。
ちなみに、Cal Newport のブログと書籍は、就職に限らず、生産性の高い学生生活を送りたいと思う大学生・大学院生は全員必読である。
友人・知人にはある程度伝えたけど、4月からバイドゥ(百度)株式会社のR&Dエンジニアとして働くことになりました。いろいろと紆余曲折があったけど、上の指針に照らして、単純に「最も人と違って、最も楽しそうで、最もチャレンジングな」ところを選べたと思う。ちなみに最初の勤務地は上海のR&Dセンターの予定。今からワクワクしてます。
なお、就活にあたっては、指導教官のT先生、mamorukさん、sassanoさんをはじめ、多くの方々のお世話になりました。どうもありがとうございました。
ちなみに、もともとこのブログ、「海外就職記」という名前で始めたものだった。海外で就職したいけど、どうやって就活したら良いかわからない!ということで、それなら自分の就職自体をネタにして、ブログで報告したりフィードバックをもらったりしたら良いのでは?と考えたのがきっかけ。
結局、夏にアメリカに3ヶ月インターンに行って、「海外で仕事したい欲」がある程度満たされてしまったことに加え、自分が目指していたのは、「海外で働くこと」ではなく、「人と違う(交換不可能な)環境で働く」ことだったと分かった。加えて、ブログで就活の過程を公開すること自体、けっこうデリケートな話なども含むし、なんとなく品の良いことではないような感じがしたので、普通の個人ブログになっていたが、今ならこうやって書けるので、本来の目的達成してやったり、という感じである。(しかも、フタを開けてみたら、実際海外で働くことになって自分でもびっくりしていたり!)
2017年1月追記:その後、バイドゥ株式会社で色々な面白い体験をさせてもらった後、ニューヨークにある楽天技術研究所にて5年ほど働き、現在ではペンシルバニア州ピッツバーグにある世界最大の外国語学習アプリである Duolingo でソフトウェアエンジニア / リサーチサイエンティストとして働いている。アメリカのスタートアップという「けものみち」な環境で働いているのも、本記事で書いた8年前の体験が確実に糧になっていると思う。もし本記事に一点だけアドバイスを追加できるとすれば、「英語はとにかく早いうちにたくさん勉強しておけ」ということだろうか。将来、海外で働くことや、ソフトウェアエンジニア・研究者として成果を上げたいなら、英語はどれだけ勉強してもしすぎるということはない。